日本に棲むイワナの種類と見分けかた(イワナの世界へようこそ Vol .1)

日本の川魚で最も標高の高い場所に棲む魚『イワナ』が今回の記事の主人公。

水温20℃以下でなければ生きていけず、真夏でも低い水温が保たれる川の源流域にしか生息できない幻の魚だ。

簡単には人を寄せ付けない険しい山の谷深くに生息するイワナは、渓流に棲む王者とも称される。

無論、釣り人にとってイワナは憧れの魚であり、僕が一番ハマりこんでいる対象魚の1つだ。

イワナの世界は実に奥深い。到底、一生では釣り切れないほど色んなイワナがいる。

このブログでは、イワナの世界をシリーズでお伝えしていこうと思う。

日本に棲むイワナの種類

シリーズ第一話として今回は日本に生息するイワナの種類をご紹介したい。

日本にはイワナの仲間として、イワナ(Salvelinus leucomaenis;写真上)とオショロコマ(Salvelinus malma;写真下)の2種類が生息している…。

アレっ?一生で釣り切れないほど色んなイワナがいると言ったのに2種だけ?って疑問が浮かぶかもしれないが、分類上は2種類だけだ。

実は、イワナは一般的に『ニッコウイワナ』、『ヤマトイワナ』、『エゾイワナ』、『ゴギ』の4つの亜種に分けられる。因みに日本に棲むオショロコマは、『オショロコマ』と『ミヤベイワナ』の2つの亜種が知られている。

まずは基本的な4亜種の見分け方から簡単にご紹介する。さぁー深い深いイワナの世界の入り口に一歩踏み出していこう。

ヤマトイワナ

ヤマトイワナの外見的な特徴は、成魚の体表に白い斑点がないこと。4亜種の中で最も見分けやすい亜種と言えるだろう。

ただし、幼魚や若魚の時に白い斑点を有するものや、成魚でも僅かな白斑を持つヤマトイワナも存在するため、そのような曖昧なイワナは外見だけでは一概に判断できない。

このなんともぼんやりとした部分がイワナの沼…いやいや、イワナの世界の深さを物語っている訳だ。

とにかく白色斑点が一個も無ければ、一先ずヤマトイワナと思って良いだろう。

ヤマトイワナの生息域は、本州中部の太平洋側へ注ぐ河川と紀伊半島の熊野川水系の河川および琵琶湖の東岸へ流入する河川という説が一般的だ。

エゾイワナ(アメマス)

エゾイワナの外見的な特徴は、大ぶりな白色斑点だ。ヤマトイワナにみられた橙色の着色斑点は無く、両者の見分け方は簡単だ。

主な生息域は北海道であり、山形および千葉県以北にも生息する。

北海道や青森県にお住まいの方は『アメマス』という呼び名の方が一般的かもしれない。

エゾイワナは同じ亜種でありながら2つの標準和名を持つ魚であり、エゾイワナは一生を生まれた川で過ごすタイプを呼び、アメマスは湖や海へ下るタイプを示す。

ゴギ

ゴギの外見的特徴は頭部に白い斑点や模様が入ること。白と橙色の斑点が体表に現れるため、ヤマトイワナやエゾイワナと見分けることができる。

ゴギの生息域は狭く、中国地方の一部の河川に限られる。

ニッコウイワナ

ゴギと同じように、白と橙色の斑点模様をしていながら頭部に白い模様が無いことがニッコウイワナの特徴だ。

ニッコウイワナは日本中に放流されたこともあり、今では北海道から四国および九州にも生息するが、本来の生息域は未だハッキリとしていない。

真っ赤なタイプから金色のタイプ、黒ずんだタイプ、中には、着色斑点の無いタイプもあり、実に様々な模様がある。

オショロコマ

オショロコマは一際赤く細かな朱点が特徴的だ。日本では北海道にしかいないことからも見分けるのは容易と言えるだろう。

因みに、オショロコマもアメマスのように海に降る個体がいる。釣り人にはドリーバーデンと呼ばれることもあるが、北海道のオショロコマが海に降ることはとても稀だ。

極偶に、海から近い川で写真左側のような海から餌を求めて遡上したと考えられる銀毛したオショロコマを釣ることができる。

ミヤベイワナ

ミヤベイワナは、オショロコマが火山活動によって然別湖に閉じ込められ、独自の進化を遂げた魚だ。湖で微細なプランクトンを食べる為に鰓耙と呼ばれる器官を発達させている。そのため、鰓耙の数の違いでオショロコマとミヤベイワナを区別することができる。

無論、生息地は然別湖に限られ、然別湖にはオショロコマは生息していないため、然別湖で釣れれば、わざわざ鰓耙を数えなくともミヤベイワナと思って間違いない。

曖昧なイワナの存在がイワナ好きを狂わせる

ここまで読んで頂いた方であれば、何となくイワナの亜種を見分けられる気になっていただけたことだろう。

それでは、この上の写真のイワナはどの亜種に該当するか分かるだろうか?

もう一題、↑コレはいかが?

最後にもう一枚、↑このイワナはどうだろう。

イワナは谷ごとに特徴が異なる魚

1枚目は頭部に模様が入っているため、ゴギと判断したくなるが、実はゴギの生息域外の沢で釣れたイワナだ。

恐らくニッコウイワナであろうと素人なりに僕は判断しているが、白い斑点が大きく、同じ沢では着色斑点の無いイワナも釣れるから一層分からなくなる。

2枚目の写真は、ヤマトイワナとニッコウイワナの境界とされる山で釣れたイワナだ。

一見するとヤマトイワナのように思えるが、しっかり魚体を観察すると白斑が僅かに確認できる。

放流されたニッコウイワナとの交雑種かと思えば済む話しかもしれないが、この沢で釣れるイワナはこの特徴をもつイワナばかりで、白斑の多いニッコウイワナは釣れないのである。

3枚目の写真は、もはやどのイワナにも該当しない模様をしている。このような特徴的な模様のイワナを釣り人は『流紋岩魚』と呼ぶ。

かつて、その沢の魚はほとんど流紋岩魚だったそうだが、違う川のニッコウイワナが放流されて以来、交雑が進み、この特徴的な流紋模様はもはや風前の灯だ。恐らく、僕が生きている間にこの沢から流紋岩魚は姿を消すことだろう。

イワナは人間が勝手に4亜種に分類しただけであって、実際は沢ごとに特徴が異なり、イワナの模様や形は谷の数だけあると言っても過言ではない。

初めて出会うイッピキに価値を置く僕にとって、初めての沢を登る度に毎回どんな模様のイワナが釣れるのだろうとワクワクさせてくれる貴重な存在なのだ。

今回ご紹介したイワナの写真の中には、何日も山を歩いた先でようやく出会えたイワナもいる。小さな魚ではあるが、世界の巨大魚よりも生息地にたどり着くために時間と技術を要することすらあるのだ。

そんなイワナを求めた釣行記を今後このブログで書き記していこうと思う。