関東に棲む美魚“アカヒレタビラ”を求めた釣行記

タナゴという美しい川魚をご存知だろうか。せいぜい10cm程度にまでしか成長しない、いわゆる川の小魚なのだが、一年に一度だけ鮮やかな婚姻色を身に纏い一部のマニアックな生き物好きを狂わせる。

僕もまた、Breeding colorに狂わされたフィールダーの1人だ。

タナゴ釣りの幸せの一つ、婚姻色

タナゴの仲間は日本に亜種等を含めて18種類が生息している。今回はその18種の中の1種『アカヒレタビラ』というタナゴの仲間を求めた釣行記をお届けしたい。

勿論、目標はブリーディングカラー、即ち婚姻色に輝く雄のアカヒレタビラだ。

タナゴの仲間は、産卵期になるとオスが鮮やかに発色しメスにアピールを繰り返す。産卵期や期間は種ごとに異なり、春と秋に大別され、今回の記事の主人公であるアカヒレタビラの産卵期は春だ。

机上で生き物を探す時代

桜満開の頃、アカヒレタビラの情報収集を開始した。何事も予習が大事。机上で得られる情報を精査して、目的地を北関東に決めた。

残念なことに、一部のタナゴを除き、多くの種類のタナゴは適当に釣りにいって釣れるほどの生息数や生息域を有していない。種類によっては捕獲や飼育さえ許されないものもいる程だ。

タナゴ探しの下調べは、何処なら釣っても良いのか調べるところから始まり、どんな環境で釣れたり採れたりしているか把握するといった流れになる。

勿論、ネット上には肝心な詳しいポイントの情報は殆ど無く、掲載すべきでもない。

今回掲載する風景写真はあくまでイメージである。必ずしも釣れた場所の写真ではないことを承知の上で読み進めていただきたい。

今回の予習の要点は、国内外来種であるカワムツの存在だった。先駆者たちの文章を読み込むと、アカヒレタビラより一回り大きくてすばしっこいカワムツがタナゴを狙う釣り人を悩ませていた。つまり、アカヒレタビラはカワムツが棲むような環境、即ち流れのある小川が狙い目と僕は作戦を立てた。

アカヒレタビラの餌を準備する

タナゴは実に色んな餌を食べる魚だ。水草からユスリカの幼虫といった動物性の餌まで種類によって嗜好性こそあるもののとにかく何でも食べる。

今回は黄身練と呼ばれる練餌と赤虫(ユスリカの仲間の幼虫)を用意した。因みに黄身練はホットケーキミックスと卵黄を混ぜるだけで簡単に手作りできる。言わずもがな、美味しそうな甘い匂いがする。

カワムツからの猛攻が想定以上

いよいよ、アカヒレタビラへの挑戦が始まった。北関東の田園地帯を緩やかに流れる小川の畔に立ち、延べ竿にタナゴ仕掛けを結ぶ。試しに赤虫を付けて川に仕掛けを入れるとすぐにウキが消し込んだ。

早速、恐れていたカワムツだ。

とても色鮮やかでカッコイイ魚なのだが、本来の生息域ではないこの地において残念ながら厄介者と言わざるを得ない。

生き物好きとは不思議なもので、何処でも出会える生き物や本来の生息地ではない場所で出会う生き物には魅力を感じないものなのだ。とても身勝手な価値観と自覚しながらも、やはり珍しいとか在来種という言葉に流されやすい。

そんな自分の価値観を考えながらカワムツを延々と釣り上げること4河川…。すでに釣り上げたカワムツの数は50匹を優に超えていた。このままだとカワムツ釣りで終わってしまいそうだ。

 

ついにメスのアカヒレタビラを釣りあげた

5ヶ所目のポイントは、一部コンクリートで護岸化された川だった。いかにもカワムツが釣れそうな川なのだが大小様々な大きさの石がある。

タビラと名前の付くタナゴの仲間は、他にもセボシタビラやシロヒレタビラなど5種いるが石の周りで釣れることが多い。

良い雰囲気だなと感じながらカワムツを釣り上げていくと、平たい魚体が針に掛かってきた!

よく観察するとアカヒレタビラの雌のようだ!思わず笑みが零れる。メスがいるということは確実にこの水系にオスもいる。一先ず、アカヒレタビラの生息域にたどり着いたことに安堵した。

メスしか釣れない…結果、タイムアップ

 

カワムツ20尾にメスのアカヒレタビラ1尾のペースで護岸化された川をじっくりと釣り上がるもオスはついに姿を現さず…。

翌日は思い切って地域を変えてアカヒレタビラを探した。他のタナゴは釣れどもアカヒレタビラの姿は確認できず…。そうして1泊2日のアカヒレタビラ探しはタイムアップとなった。

どんな苦労にも意味がある

1週間後、護岸化された水系に狙いを定めて再訪することになったのは言うまでも無いだろう。川の本流筋では無く、護岸化された川に流れ込む支流を見て回った。

いくつもの小川を見て回ると、タナゴ達がキラッキラッっとヒラを打っている場所を見つけた。幅は子供でも跨げる程度だが緩やかに流れがあり、パッと見るだけではカワムツの姿も無さそうだ。

はやる心を落ち着かせながら仕掛けを組み、黄身練で実釣開始!

すると1投目からメスのアカヒレタビラが立て続けに掛かってきた。やっとカワムツ釣りではなくタナゴ釣りに集中できる場所にたどり着いたと実感した。

メスばかり釣れ続くので、一旦釣り竿を置き、ヒラを打つタナゴを観察してみることに。濁った水の中で時折、青っぽく発色した雄もヒラを打っているではないか!ガサガサ用の網も持っていたのだが、ここまできたら折角なので釣り上げたいところ。

タナを微調整したり、餌を赤虫やミミズに変えたり、誘ったり、流したり、色々試していると遂にオスのアカヒレタビラが餌に食いついた。

想像以上に苦戦しただけあって、このイッピキとの出会いは僕にとって感動的であった。

もし、護岸化された本流で運よくオスを釣り上げていたら、きっとこのアカヒレタビラの楽園には辿り着けなかっただろうと考えると、どんな苦労にも意味があるのだなと実感した瞬間だった。