相模川に棲む白斑の無いイワナを求めて(イワナの世界へようこそ Vol.6)

相模川に棲むヤマトイワナにしか見えないニッコウイワナ

この春、相模川の畔に棲む僕にとって、ちょっと嬉しいことがあった。
18cmを超える巨大なオイカワが釣れることくらいしか、この川の魅力に気づけていなかった僕に、1つ目標ができたのだ。
今回は敢えて宿題を残した春の相模川の話しをしたいと思う。

春の利根川に一通のLINEが届く

花粉飛び交う3月の利根川で、アオウオを待つのが僕のシーズナルパターンだ。
この時期は日本各地の山々で渓流釣り解禁となるが、大魚を釣る大チャンスの真っ只中でイワナのことは考えないようにしている。
アオウオ釣りに勤しんでいることそんな僕の状況を知っているはずの人から、他人の釣果情報のURLが送られてきた。
一瞬、URLを開くか迷った。面白い魚にまつわる情報であることに疑いの余地はなく、大抵が難解な目標の始まりだったりするからだ。

春はアオウオ釣りの方が楽しい

URLの中身は、相模川上流で釣れたとされる白斑の無いイワナ達の写真であった。
まるで、ヤマトイワナのような模様なのだが、文章を読んでみるとDNA検査済みのニッコウイワナだという。
発信者はネット上でよく見かける方なので、情報の信頼度もかなり高かった。
普段ならすぐにでもリサーチを開始するところだが、迫る次の投入時刻に向けてアオウオ用の仕掛け作りの方が優先度が高く、チラ見程度でiPhoneを閉じてしまった。

アオウオ釣りだって忙しい

皆に暇そうだと言われるアオウオ釣りだが、思いのほか忙しい。PCで通常業務を行いながらともなると尚更だ。
アオウオは滅多に釣れないが、いつも通りの仕事をしながら送る車上生活は、非日常感がたっぷりで何よりメチャクチャ楽しい。
心満たされている時に誘惑されても、餌に食らいつき辛いのは人も魚も同じという訳だ。

イワナの世界へようこそ Vol.1を振り返る

アオウオに夢中だった僕のように、サラッと文章を読み飛ばした方のためにもう一度書き起こしてみよう。
『白斑が無い、けど、DNA的には“ヤマトイワナ”ではなく“ニッコウイワナ”』
以前、ブレコの記事で僕はこう記していた。
『とにかく白色斑点が一個も無ければ、一先ずヤマトイワナと思って良いだろう』
何を持ってニッコウイワナと判断できるのかはさて置いて、“一先ず“という魔法の言葉を飾り付けたのは、こういうレアケースもあるからだ。

僕はイワナの専門家ではないので詳しいことは分からないが、ニッコウイワナの生息域とされる相模川というフィールドとニッコウイワナなのに白斑が無いという情報に対し、アオウオ釣りを終えるや否や急に惹かれ始めた。
自分の興味が沸く瞬間ってその時の状況によって様々だよな。
人との出会いだって、魚との出会いだって、タイミングが違えば全然違った未来が待っている。

相模川も広い。できれば苦労せずに……

平成産まれの怪魚ハンターは、文章や画像から情報を引き出してくることが得意だという話しをいつぞやしたはずだ。
闇雲に10日探釣するよりも、1日PCと睨めっこしていた方が集まる情報は多かったりする現代に疑問を抱きながらも、釣りたい魚は他にもいっぱいあるのでいつも通り淡々と効率重視で事を進めていく。
最新機器を使って半日で結果を得た者が、結果は持たずとも10日探釣した経験と知識を得た者に倍返しを食らう未来がいつか来て欲しいと、心の片隅で思ったりしながら、情報量だけやけに多い相模川を調べ上げた。

同じようなイワナの画像や渓相の写真を様々な場所からピックアップし、1つ1つを線のように繋ぎ合わせて見当をつけた山へ翌日登ることにした。

山奥へ歩を進める

相模川に限らず、関東の渓流はとにかく釣り人が多く、入りたい沢がある時は前夜から車中泊するといったイメージがあったので気合を込めて真夜中に家を出発した。
今となっては不思議に感じるが、近所だし先行者がいれば別日に実釣すれば良いという概念はこの時まるでなかった。
夜明けと同時にいくらか山を歩き、沢に降りると早速イワナが泳いでいるのが見えた。

目標が思い出に変わる瞬間

魚影が確認できて一安心。確信こそ持てなかったが白斑も無さそうだ。
釣り竿を組み立て、ルアーを投げ込んでみると一投目から見えていたイワナが食らいついてきた。
ブレコのランディングネットでイワナを掬いあげ、魚体を確認すると本当に白斑の無いイワナが釣れていた。

どんな魚も1匹目が一番嬉しい

前からも後ろからも正面からも。様々な角度から沢山の写真を撮る。
この春、アオウオの陰でチラついていた相模川の目標が思い出に変わっていく感覚。
僕にとって至福のひと時だ。

陽の光が当たる場所でも

前日まで降り続いた長雨の恩恵か、イワナ達の活性は頗る良く次々とイワナが掛かってきた。
太陽に当てると鱗1枚1枚がキラキラと輝いて見える。どんな宝石よりも綺麗だって感じるのはきっと僕だけではないはずだ。

相模川の魅力と奥深さ

相模川は入渓者や放流が多いと見聞きしていたので敬遠していたが、そんな自分が間違っていたなと、この沢のイワナを釣りながら心改めた。
また、目標を作って相模川に釣りに出かけてみたいものだ。

枝沢や源流部はまたの機会に

そうそう。僕にURLを送ってくれた友人の存在を忘れてはいけない。
枝沢や源頭部も気になったが、きっといつか彼と再訪することになるはずだからと思い、まだ陽が高いうちに下山を始めることにした。
敢えて宿題として残した未確認な場所が未来の僕ら2人をワクワクドキドキさせてくれるに違いない。
もしかしたら……、伏流の先に色の違うイワナがいるかもしれないし、枝沢には形が違うイワナがいるかもしれないと思うと次の山登りも楽しみだ。