ネット世界を泳ぎ回る野箆坊な黒いイワナ。
それはもう。僕にとってまるで亡霊のようなイワナ。
今回はそんな亡霊イワナの為に大切な目標を投げ打ったお話しだ。
亡霊イワナの第一印象はノンスポイワナ
いつものように友人からイワナのスクショが送られてきた。
そう、毎度恒例のやつ。難解で見つけるのが難しい特殊イワナの写真だ。
一見するとスポットレスやノンスポと呼ばれそうなヤマトイワナ。画像を拡大してみると薄っすらと白斑や朱点が見える。
何とも野箆坊(のっぺらぼう)なイワナというのが第一印象だった。
(画像は今回の釣行で出会えた亡霊イワナ)
見え隠れする亡霊イワナの情報
いつも通り相棒と手分けして、机上で得られる情報を掻き集めて作戦会議を開いた。
情報量は思いのほか多いが、ネット上に姿を現しては肝心なとこでフワッと消えてしまう。
どの沢か分かりそうで分からない。水系も絞りきれない。
まるで平成生まれの僕らを嘲笑うかのような亡霊イワナに僕たちは振り回された。
(画像は今回の釣行で出会えた亡霊イワナ)
パワープレイ発動
人生って、諦めが必要なこともあるよな。
机上で集めた情報を精査しても、候補となりうる谷が50本以上残ってしまった。
それなら、全部見れば良くね?!って事で、相棒と一緒に幾日も費やし、可能性が高そうな沢を30本くらい見てまわった。
アブに集られ、大滝に絶望し、パンクしそうな林道をバックで引き返し、ルーファイミスって大回りし、多重堰群に嫌気が刺し…。
終いにはゲリラ豪雨によって僕らの亡霊イワナに対する炎はまるで消化器でもかけられたかのように呆気なく鎮火した。
亡霊イワナの正体とは
亡霊イワナ大捜索中に魚が全く釣れなかった訳ではなく、イワナの生息する沢もいくつかあった。
勿論、見当違いなイワナが棲む沢が殆どだったが、僕としてはオヤっと思うイワナもいくつか釣れたし、泳いでいるのも見た。
魚影にオヤっと思わされても食わせきれなかったり、釣れても想像より白斑があったり。
そんなこんなで、理想としていた模様と僅か違っていると勘違いしてしまっていた。
自分が釣ったイワナの正体すら判断がつかなくなっていて、まさに亡霊に取りつかれたような精神状態だ。
疑心暗鬼になりかけたら一度立ち止まるが吉である。
釣りたい魚は他にも沢山あって、全身全霊を亡霊イワナに捧げてはいけないってことはよく理解していた。
二度目になるが。偶には諦めって重要だ。諦めが新たな成果に繋がることなんていっぱいあるからな。
上部だけの挨拶
イワナとは全く縁のないロケ中に対応してくれた担当者がイワナフリークだった。
少しばかり山釣りについて立ち話しをしたのだが、内容はご想像の通りだ。
今後仕事上のお付き合いがあるかもと思ったことに加えて、信頼感もあったのでLINEの連絡先を交換させていただいた。
とは言え、別れ際の「今度一緒に釣り行きましょう」って単語は、基本的には実現する気のない上部だけの挨拶だよな。
少なくとも、僕はいつもそう思って使っている。決して悪気はないのだけど。
アオウオ釣りに勤しんでいると
3ヶ月くらい経った4月のある日。
ブレコ読者の皆さんならお分かりだろう。僕にとってアオウオ釣りが最盛期を迎える繁忙期だ。
今年も順調にアオウオを釣り上げていると、ロケで知り合ったあの方から1泊2日で渓流釣りのお誘いが来た。
それも、行き先が亡霊イワナを探したあの山だというので、思わずタニシに穴を空けていた手が止まってしまった。
僕と相棒は情報に踊らされていた
一緒に亡霊イワナを探した相棒に連絡し、抜け駆けを快諾いただいた。
イワナに限らず珍魚や怪魚の情報交換は色々とややこしいから、最初にことをハッキリさせとくべきなのだ。親しい中にも、いや、親しい中だからこそ礼儀あり。
そして、待ちに待った実釣日。集合場所を聞かされ唖然とした。
亡霊イワナが棲むという沢は30本のうちの1つ、即ち相棒と一度訪れた沢だったのだ。
信憑性に欠く情報を鵜呑みにして深く探釣せず見切っていた。
平成生まれの怪魚ハンターは、時に大量の情報に呑み込まれ挫折することもあるのだ。
亡霊イワナとの出会い
入渓点までの道のりは想像以上なもので、沢の雰囲気は昨年感じたものと同じだった。
そして目の前にはイワナ達の姿が見えている。
ルアーを投げ込むと山奥故にスレ知らず。すぐに掛かってきた。
僕と相棒を惑わし続けた亡霊イワナが輝く太陽のもとで実在するイワナに変わった瞬間。
そして、1つの目標と引き換えに新しい友人を得た瞬間でもあった。
黒くて野箆坊なイワナたち
その後は友人と何尾かの亡霊イワナを釣り上げた。
条件の整った沢って、一つの淵から湧き出るようにイワナ達が掛かってくるから凄いよな。
どれも、僕が見てみたかったイワナばかりで感動的だった。
極端に短かった実釣区間
この日、亡霊イワナを釣った区間は僅か50mいや30mくらいだったかもしれない。
そんな短い区間でも僕は心満たされていた。
この山とイワナには大きさでも数でもない、言葉で表現したくない価値観を得られる不思議な魅力があった。
予定変更
退渓中に新しくできた友人から行ってみたい沢があると打ち明けられた。
場所を尋ねると、僕と相棒も探釣していない谷だ。
そんな面白い話しに乗らないワケがなく、当初の予定を変更してエントリーすることにした。
上手く行く時って、何やっても上手くいくもんだよな。
些か、入渓点まで時間を要したが、2人で等高線と睨めっこしながら目的の沢に降り立ち、釣れたのが写真のイワナ達だ。言うまでも無く、最高にカッコ良かった。
そうそう。相棒の存在を忘れちゃいけない。彼のことだから必ず亡霊イワナの沢を見つけ出すはずだ。
その時に彼が味わう達成感と引き換えに今回僕は新しい友人を手にした。もしかすると片想いかもしれないがね……。
自分の力で見つけた時の達成感こそ得られなかった今回の亡霊イワナ探しだが、ニアミスに気付けなかった自分の勘の鈍さに気付く良い機会でもあった。
そしてなにより、人生偶には潔く諦めてみるのもアリだなと、次回の釣行予定を新しい友人とLineで相談しながら改めて実感させられた。