『幻の魚』。これは怪魚ハンターにとってミラクルパワーワードだ。
今回の記事は、『幻のウグイ』と称されるウケクチウグイについてご紹介したい。
なんだ、ウグイか…。そう思ったブレコ読者の皆さん!ちょっと待った。
確かに釣り人ウケする魚ではないかもしれないが、生き物としてはかなりイケてる魚だ。
取り敢えず、多くの淡水魚好きがカッコいいと感じる、ウケクチウグイの姿を見てからこの記事を読むか決めて欲しい。
釣り人に嫌がられる魚『ウグイ』について
そもそもウグイという魚をご存知ない方もいらっしゃることだろう。
簡単にウグイを表現するなら、川釣りをする人から嫌われる雑魚(ザコ)である。
ヤマメやアマゴを狙った渓流釣りで頻繁に掛かってくる煩わしい魚という印象が釣り人には強くあるわけで、そんなウグイと名の付く魚をわざわざ釣りに出掛けるなんて言えば、変わり者と呼ばれることだってある訳だ。
究極的にカッコいいウグイ『ウケクチウグイ』
『カッコいい』や『ダサい』とは主観的表現の極みだが、アカメやピラルクをカッコいいと感じ、ハクレンやボラはダサいと言い放つ人が多い。つまり、多くの人にカッコいいと感じさせる要素は確かにあるものだ。
※念のためにお伝えすると、僕はボラもハクレンも大好きだ。目の位置が特に可愛らしく感じる。
閑話休題、ウケクチウグイには、長い頬、スプーンヘッドと呼びたくなる顔面から背中のせり上がりの曲線美、下顎の長さ。俗にいう『カッコいい淡水魚』によくある形が揃っている。
淡水魚好きの僕も例外ではなく、この魚の存在を知った時は釣りたくてしょうがなくなり東北地方へ遠征したものだ。
2000年に新種として発見された幻の魚『ウケクチウグイ』について
実はウケクチウグイが新種として記載されたのは、2000年(平成12年)と比較的最近の出来事だ。
ウケクチウグイの生息域は信濃川水系や最上川水系といった東北地方の日本海側に流れ込む一部の河川に限られ、環境省のレッドデータブックによると、絶滅危惧IB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高い)に指定されている。
ウケクチウグイについて、現時点では採捕に関するルールや規制は無いものの、比較的新しく発見された種類であることや正確な個体数が把握されていないことから、適切なキャッチ&リリースがなされるべき魚だろう。
因みに、ウケクチウグイは最大で70~80cmにまで成長すると言われており、日本産淡水魚としては大型の部類に入る。
生息域が限られる日本固有種、詳しい生息数が分からない魚、大型の淡水魚、そして何よりカッコいい魚。
ここまで読んでいただければ、ウケクチウグイが『幻の魚』と呼ばれる所以が伝わってきたことだろう。
親友と一緒にウケクチウグイを狙った一日を振り返る
僕の親友に陸水環境の生き物が好きな人がいる。彼もまた、ウケクチウグイをカッコいいと感じ、いつか釣ってみたいと言われていた。因みに彼の住まいは岡山県だ。
そんな彼と東北地方を旅する機会があり、ウケクチウグイを釣り狙ってみた時を振り返っていこうと思う。
僕にとってウケクチウグイを釣るならココ!という、とっておきのポイントがある。大雨なんかで水位が極端に増えていなければ、いつ行ってもウケクチウグイと出会える鉄板ポイントだ。
朝マヅメで魚の活性が高い時間帯に入川し、遠路はるばる東北地方にやってきた親友にウケクチウグイが着いている瀬の位置とルアーを泳がせるコースを説明する。
そして僅か数投目で、彼にとって念願のウケクチウグイを釣り上げることができた。
贅沢な一言。『ウケクチウグイのポイント探し』がしたい
少し時間を置いて、僕も数年ぶりにウケクチウグイをキャッチ。何度見てもカッコいい魚体だ。
親友は1匹釣って満足するかと思いきや、一からウケクチウグイを探してみたいと言い出したのだ。
確かに、生き物好きとしては、狙った生き物がどんな環境に生息しているのか再現性を確認したいし、できればそれを自分の力で探し当てたいものだ。
分かる。分かるぞ、その気持ち。だが、今この瞬間、僕らのコンディションはイワナを狙った3日間の山行からの夜通し運転明けだ。
さらに今夜は虫探しの予定ということも忘れてはならない。明日の夕方までに僕は関東の自宅に帰らないといけないという補足も付け足したいところだ。
とは言え、そんな言い訳が僕の親友に通用しないことは百も承知。僕のハートにも、もう一か所くらい鉄板ポイントを増やしたいというモチベーションがあり、午前中だけ頑張ってみよか!と意見の一致。こうして、ウケクチウグイのポイント探しが始まった。
意外と釣れない…ポイントって大事だ
まずはクーラーの効いた車内でgoogle earthを見ながら、川の瀬や淵、カーブや堰などを確認する。
2人で意見を出し合いながら一つの目標に向かっていくストーリー。例え疲れていても、大学時代から続くこの生き物探しの感覚がとても楽しいのだ。
足早にいくつかそれらしいポイントに入川するも、ウケクチウグイからの反応は無く、あっという間にお昼だ。
東北地方にいることを感じさせない36℃という外気温。午後からは絶対寝よう!と言っていた僕が、ウケクチウグイのポイントが中々見つからないことに燃え上がり、ポイント探し続行を独断で決定。
この後、深夜に始まった虫探しの間に力尽きて寝てしまったことはココだけの秘密だ。因みに、親友は泥んこになりながらお目当ての虫をゲットしてホクホクしていた。
太陽が傾くにつれて真っ赤に日焼けした親友は目を細くしながらどんどん無言になってしまったが、彼が言い出したことなので、構わず次々と気になる場所を巡り、僕も黙々とルアーをキャストしていく。
こうなったら意地でもウケクチウグイが釣れる場所を見つけてやる!
ウケクチウグイが群れるポイントをついに見つけたぞ
瀬と淵が近接するいわゆる大場所でようやくヒット!慎重に引き寄せると良いサイズのウケクチウグイだ!
暑い中、2人で相談し合いながら探し出したイッピキに今朝よりも大きくハイタッチ!
すかさず、親友も同じポイントにルアーを投げ込み連続ヒット!
どうやら活性の高いウケクチウグイが群れているようで、その後もウケクチウグイの連発を2人で堪能した。
ウケクチウグイは釣り好きより生き物好き向きの魚
図体こそ大きいウケクチウグイだが、実はとっても引きの弱い魚だ。流れの中でヒットしてもスゥ~っと引き寄せることができる。
勿論、ジャンプすることも無く、突っ走ることもしない…。活性が高い状況では、今回のように比較的簡単にルアーに飛びついてくるので、難しい魚釣りのテクニックも必要としない。
どうしてもウグイの仲間だけあって釣り味としては、あまり魅力的ではないと言ってしまいたくなる魚なのだ。
それでも、自身にとって新しい種類の魚の生態を予測しながら生息場所を探していく楽しさや釣り上げた時の魚体のカッコ良さは一級品であることに間違いない。
僕にとって、二度目のウケクチウグイ探しの釣行を存分に楽しむことができた一日だった。