嘘か誠か知らないが。
世界にはヒトを食ったと言い伝えられるナマズが何種類かいる。
今回のお話しの主人公は人食いナマズ界南米代表のジャウーだ。
深い岩場に棲む“ジャウー”
ジャウーと聞いて魚の姿が想像できる方は相当な魚マニアだろう。
ジャウーは最大で1.8~2m程度まで成長するナマズの仲間であり、南米大陸では超大型ナマズの部類に入る。
体色は黄土色で、体形はレッドテールキャットフィッシュに似た印象を受ける。
凶暴極まりない大ナマズ
僕が初めてジャウーを見たのはとある水族館だった。
巨体に対して水槽が狭すぎて窮屈そうに感じたのを今でもよく覚えている。
数年後、他の水族館のバックヤードに入る機会があり、同じように狭い水槽に1匹で飼われているジャウーを見た。
何故、表の大水槽へ入れないのか尋ねてみると、他の魚と一緒にすると手あたり次第、攻撃したり食ってしまったりするそうだ。
どこにも行き場がなく、仕方なくバックヤードで単独飼育しているとのこと。
視界に入ってきた奴、全部餌
水族館で相当な凶悪話しを聞いて、益々ジャウーのことが好きになったし興味が沸いてきた。
動く物、匂う物、何でも食らいつく水槽の中の暴君を南米の生息地でいつか釣り上げてみたい。
水族館のバックヤードで話しを聞いてから数年間、ジャウーの生息域や釣り方を調べたり聞いたりしながら入念に作戦を練って過ごした。
ピラルクの後、ナマズ狙いのキャンプへ
夢のピラルクを釣り上げた翌日、ガイアナに棲むナマズを1種類でも多く釣り上げることを目標に居候させてもらっていた村から2泊3日のキャンプへ出掛けることになった。
察しの良いブレコ読者の方は、僕がジャウーの他にもレッドテールやピライーバなんかを狙っていたことくらい、きっとお見通しなはずだ。
何でも、村の周辺はピラルクこそよく釣れるが大型ナマズが釣れにくいらしい。たった1日しか一緒に釣りをしていなかったが、既に僕のボートマンに対する信頼度は高く、些か出費は嵩むが村から遠征することにした。
不思議なもので、拠点から遠ければ遠いほど、何故か釣れる気がしてしまうものだ。この村から遠くても、他の村からは近いのにね。隣の家の芝は青いとはよく言ったものだ。
憧れのアロワナを釣る
なけなしの所持金で食料とガソリンを必要な分だけ買い込んで、ナマズが良く釣れるというポイントへ案内してもらう。
途中、ピラルクの餌として狙いながらも釣りそこなったアロワナを釣るためにボートマンが船を止めてくれた。
枯れ木の中に見え隠れするアロワナに四苦八苦しながらも、なんとか憧れのアロワナをキャッチすることができた。
『さぁー、アロワナ釣りは終わりだ!次はクーティーを釣るぞ!』
まだまだアロワナが泳いでいるのが見えるのだが、ガイドはそう言いながら船のエンジンをかけた。
魚種集めが趣味であり1魚種1匹で充分ということを理解してくれているボートマン2人。
最高に頼もしいし、この先3日間、何種類の魚たちに出会えるのか俄然、ワクワクしてきた。
まさかのアロワナリリース
ジャウーをはじめとする南米のナマズは、ピラニアだろうがピーコックバスだろうが餌は何でも良いと思っていたのだが、アロワナはリリースしろと言われた。
昨日の釣れなさっぷりを体験した僕は、餌として3切れは取れそうな貴重なアロワナをリリースすることが理解不能だったので、『ナマズはアロワナでも釣れるって聞いたよ?』こんな感じで日本人らしく、まわりくどくキープを提案してみたのだが…。
『エサは何でも良いけど、クーティーに勝るものは無い。アロワナは要らない!リリースだ!』とボートマンのご指示。
更に付け加えて、『エサに拘らない奴は釣りをあまり知らない奴だ』的なことも言っていた。
確かに一理ある。どんな魚でも、その場その時にあった特効餌があるものだ。
ところでクーティーなる魚がどんな魚なのか、勉強不足で皆目見当もついていなかったが、信じてアロワナをリリースした。
クーティーことマトリンシャン
クーティー釣りが始まったのは丁度正午ごろだった。ボートマンの指示でスピナーを岸に向かって投げると、早速ヒットしてきた!が…1mくらい飛び上がってバレてしまった。
30cmほどの銀色の魚にみえた。クーティーの正体は、この川に向かう道中で延べ竿を使って釣ったマトリンシャンのようだ。
昨日、何故クーティーを狙わなかった?と疑問に思う程、クーティーの反応は良好で、バラシまくりながらも餌の調達には然程苦労しなかった。
もう16時。時は不平等
準備、アロワナ釣り、餌の確保、移動。ナマズ釣りのポイントに到着する頃にはすっかり夕方になってしまっていた。
予算の都合で3日間という短い日程が限度だったので、実釣時間が少なくなるのは覚悟していたが、何となく時間が過ぎるのが早く感じてしまう。
時間だけは誰にでも平等とか言うけど、そんなのあり得ないよな。この世に平等なんてものは存在しない。
少なくとも僕はそう思っているし、この時はまだ、ボートマンと僕の間で流れる時間の速度が少し違っていたはずだ。
僅か数分後の出来事だった
ナマズ釣り一カ所目のポイントは流れが渦巻く本流のド真ん中だった。増水しているので想像するしかできないのだが、モコモコと沸き立つ水面をみれば、起伏の激しい地形であることは一目瞭然だった。
ここが特に深いというスポットにクーティーの半身をつけた仕掛けを落とし込み、ボートを中洲につけてアタリを待つ。
この後は夕飯の食材としてピーコックバスを狙いに行くからと言われ、スピナーからミノーにルアーを変えようとすると、早速ブッコミ竿にアタリが来た。
ボートマンの指示に従ってアワセを入れると、何とも重厚感ある手応えがロッドに圧し掛かってきた。
この激流の中を上流に向かって走る魚をゆっくりと浮かしてくると、途中でボートマンからジャウー宣言があった。
『まじか、いきなりジャウー?!想像より引かないんだけど…』と心の中で呟きながら、集中してファイトしていると、本当にジャウーが浮上した。
スレ掛かりならず、スレ絡まり
『おぉー!ジャウーだー!』って興奮しようと思ったら、なんとワイヤーハリスがジャウーの胴体に絡まっているだけで、フックは刺さっていないではないか!
ジャウーなんて3日やって1匹釣れるかどうかの魚と思っていただけに、めちゃくちゃ焦りながらもなんとか、ボガグリップで捕まえることに成功した。
小さいケド、ホントに嬉しかった
ジャウーとしては、まだまだ小さいのは分かっていたし、掛かりもスレだったけど、そんなことは関係なく猛烈に嬉しかった。
クーティーを投入して僅か数分でジャウーが釣れた。このペースなら、あと2日間でかなりの種類のナマズが釣れる気がしてきた。
このボートマンたちとなら、ピライーバやレッドテールも可能性あるぞ!僕にとってそう思わされる出来事であり、ボートマン2人の時の流れ方に自分がアジャストできた瞬間だった。
その証拠に、今日のナマズ釣りはこの位にして、晩御飯&お土産用に亀の卵とピーコックを探そうという彼らの提案に心からオッケーと言えていた。
釣り旅はスポーツと同じで流れというものがあると僕は思っている。良い成果を上げるには流れを読み、悪い流れを良い流れに変える力がとても大切なのだ。
そうそう。そんな信頼できるボートマンに『ジャウーってヒトを襲うことある?』ってきいたら『ヒトは襲わないけど、与えれば食うかもしれないな』という答えが返ってきた。